大判例

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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)187号 判決

〔判決理由〕

3 そこで、原告の主張四1の点(本件商標と右引用商標の類否)について判断する。

本件商標の称呼は「スポーツ」であり、引用商標のそれは「スポート」であるから、両者の称呼が同一でないことは明らかである。しかし、両者とも称呼上「ポー」の音が強く発音され、それに続く「ツ」または「ト」はいずれも語尾にあつて弱く、かつ「ポー」よりも低音に発音されるのを通常とすること、「ツ」と「ト」は五十音図の同行に属し、それ自体の発音の近似しているところから、右の相違点は両語の発音上微差を生じさせるにとどまり、口頭または電話による取引の実際において、称呼上互いに紛れるおそれはきわめて多いと考えられる。この点につき、「ツ」と「ト」は発声方法が異なり発音が違うから混同のおそれがない、という原告の主張は採用できない。

つぎに、本件商標から生じる観念は、運動・競技・スポーツ等であり、引用商標から生じる観念も運動・競技・スポーツ等である。なるほど、「スポーツ」はその原語である英語のsportsについていうと、sportの複数形であつて、sportsは運動会・競技会の意味をもつこと原告のいうとおりであるが、その意味のほかに運動・競技(いずれも複数)の意味ももつものであり、特に、「スポーツ」の語は、すでにそのままわが国語に取り入れられ、運動競技と同意義の語として慣用されているものであるから、それから生じる観念が「スポート」から生じる観念と別異であるとはとうてい考えられない。

4 つぎに、原告の主張四、2の点(両商標の指定商品の類否)について判断する。

まず原告は、原告が本件商標を使用している商品は運動競技用バンド・ベルトに限られることを前提として、その商品が引用商標の指定商品と類似しないことを主張しているが、商標法第四条第一項第一一号の「商品について使用をする」とは、当該商標を現実にその商品に使用していることをいうのではなく、その商品を当該商標の指定商品とすることをいうのであるから、同条項の適用上、両商標の商品が類似するかどうかは、両者の指定商品について対比すべきである。

つぎに、原告は、本件商標の指定商品のうち「バンド・ベルト」以外の商品につき商標権(一部)の放棄およびその登録がなされた結果、本件商標の指定商品は運動競技用バンド・ベルトに限定されることとなつたので、引用商標との間に指定商品の牴触を生ずる余地がなくなつた旨主張している。しかし、<証拠>によれば、右商標権の一部放棄がなされたのはバンド・ベルト以外の指定商品であり、指定商品として残るべきバンド・ベルトにつきこれを特に運動競技用のものに限定する趣旨のものでなかつたことが明らかであるばかりでなく、右放棄およびその登録のなされたのは本件審決のなされた時よりも後であることは原告の主張自体からも明らかである。ところで、商標権の全部または一部の放棄は、登録によりその効力を生じるものであるが、その効力について遡及効を認める規定は存しないのであるから、右放棄の効力は将来に向かつてのみ生じるものと解するほかはない。したがつて、本訴においては審決が判断の対象としたように、本件商標の登録にさいし指定商品とされたすべての商品、すなわち第二一類に属する全商品について、引用商標の指定商品との牴触の有無を判断しなければならないわけである。

前に認定したところによれば、引用商標は旧々商品類別(明治四二年農商務省令第四四商標法施行細則第二〇条所定のもの)の第三六類に属する全商品を指定商品とするものであることが明らかである。

そこで、右旧々商品類別第三六類に属する商品が、その後の法令改正によりどのように表示されるにいたつたかをしらべてみるに、まず、旧々商品類別第三六類は『被服、手巾、釦鈕及装身用「ピン」類』とされ、これに属する商品として『衣服、冠、帽子、「カラ」、「カフス」、領飾、襟、襯衣、「ヅボン」下、手袋、足袋、「ハンカチーフ」、手拭、「タオル」、袱紗、風呂敷等』が例示されていた。つぎに旧商品類別(大正一〇年農商務省令第三六号商標法施行規則第一五条所定のもの)では、同じく第三六類『被服、手巾、釦鈕及装身用「ピン」ノ類』とし、その例示商品も、前記例示商品中の「ヅボン」下のつぎに「胴締」を加え、「風呂敷」のつぎに「甲馳」、「カフスボタン」、「ネクタイピン」、「ブローチ」を加えたほか従前の商品名を踏襲していた。

そして、旧々商品類別と旧商品類別とを、規定の上から全般的に比較すると、後者は前者の分類方法を踏襲しながら、一部表示を変え、また各類別に属する商品の例示を前者よりも多くし、詳細にかかげたものであることがうかがわれるのであつて、いわゆる装身具やボタンの類は、右両類別を通じて第三六類に属していたものと解される。旧第三六類に例示されている「胴締」も装身具であつて、通常の装身具としてのバンド・ベルトを含むものであると同時に、それは旧々商品類別においても第三六類に属していたものというべきである(乙第二号証の一・二によれば、特許庁の審査においても、バンドを含む胴締が旧々第三六類に属するものとして取り扱われていたことが認められる)。

そして、現行の商品類別において、装身具(バンド、ベルトを含む)やボタン類は第二一類に属するものとされているのであつて、これらは旧々類別では、前記のように第三六類に属していたものであるから、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが互いに牴触することは明らかであるといわねばならない。

なお、旧々第五二類は、「皮革、其ノ模造品及他類ニ属セサル其ノ製品並各種ノ鞄類」とされ、その例示商品中に「革帯」が含まれていたこと、旧第五二類では、例示商品中より「革帯」が除外され、第三六類の例示商品中に「胴締」が加えられたことからみて、革製の装身用バンド・ベルトが旧々類別のもとでは第三六類でなく第五二類に属するものとされていたものと考える余地もありうるのであるが、かりに旧々類別のもとで革製の装身用バンド・ベルトが第五二類に、革製以外の装身用バンド・ベルトが第三六類にそれぞれ属していたものとしても本件商標の指定商品に属する「バンド・ベルト」がその材料について限定するところなく、革製であると革製以外のものであるとを問わず、ひろく装身用バンド・ベルトを包含するものである以上、これと右第三六類の革製以外の「バンド・ベルト」との間に、指定商品の牴触をきたすことはいうまでもないところである。したがつて、指定商品の牴触に関する審決の判断にもなんら誤りはない。

5 以上のとおり、原告が審決を違法であると主張する点はすべて採用できず、審決の判断は正当として支持することができる。

(多田貞治 古原勇雄 杉山克彦)

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